NY滞在記3 機内

長時間のフライトで提供される娯楽としては、今も昔も映画と機内食サービスが二枚看板である。座席の前のポケットには供される予定の機内食のメニューが挟んであって、気分を盛り上げてくれる。機内食のメニューは健気だ。例え実際に目の前に現れるのはトレイにのった給食のようなものだとしても、しっかりお上品に書いてある。

前菜 ミックスサラダ
 トマト、人参、照り焼き団子、小柱
 クリーミードレッシング、ヌードルと共に

主菜 以下のメニューよりお選びください。
 ハーブ風味のローストチキン
   人参、ほうれん草のクリーミーリゾット

 チーズトルテリーニ
   ルッコラのクリームソース、トマト

 パン、バター

デザート
 チョコチップクッキー

というような具合である。唯一こちら側に選択権がある主菜の二品にもしっかりとそれらしい料理名がついている。だのに、結局どちらか聞かれる時には「Chicken? Pasta?」と、単なる素材名に還元されてしまうんだよね。そんなちゃらちゃらした名前なんか呼んでれっかい! こちとら忙しいんでい! というスチュワーデスさんの声が聞こえてきそうである。そりゃまあそうだ。

しかしあの、機内食のサービスが前の方の席から始まって、自分の所に来るまでの間というのはなんとも微妙な時間である。特にもう2列前とかに近づいてきた時なんか、どうしていいか悩みませんか? じっとワゴンを見つめたりすると、なんだかよっぽどお腹が空いているか、さもなくば急かしてるみたいだし、かといってもう直前まで来てるのに気付いていない振りをするのもわざとらしい。メニューを見続けて、チキンかパスタがまだ決められない優柔不断な奴だと思われるのも心外である。結局どうしていいかわからないまま色んな場所に視点を移し、なんだか挙動不審に陥ってしまうのである。

夕食を平らげ、映画も2本ほど見て、ようやく持ってきた「地球の歩き方ニューヨーク編」に目を通す。買ったはいいが殆ど読んでいなかったのである。予約したホステルの住所を地図で探し、最寄の駅を調べる。地球の歩き方は流石に親切な本で、JFK空港からの脱出の仕方も幾通りか書いてある。とりあえず一番安いと思われるバス、電車を乗り継いでいくルートを取ることに決める。

一通りやることが済んでも、まだまだフライトは続く。殆どの人が寝静まり、暗い機内をエンジン音が低く響く。その感じが僕はたまらなく好きである。あと30時間くらいこのままだったらいいのになあと冗談抜きで思う。シートのライトを付けてノートを取り出し、新曲の大枠を書き始める。アトランタまであと数時間。結局僕は一睡もしなかった。